第409回「夏の熊」

不器用な丁寧さにホッとする。

これは……熊の覆面…かな? すごくいい感じですね。一度見たら、忘れられない顔してる。恐いような、優しいような、寂しいような不思議な表情。熊の絵本があったら、挿絵にもぴったりなんじゃないですか?
そうなんだよ。宮沢賢治の「なめとこ山の熊」って童話を読んだことがあるかな? 「なめとこ山の熊のことならおもしろい」って言葉で始まるんだけど、面白いっていうよりも、生きていくことの哀しさや切なさが残る話。
すみません、知らないです。まねきねこさんは、宮沢賢治が大好きですよね。
この話は熊撃ちの小十郎と、小十郎を倒してでも子孫を残していかねばならない熊との出会いと別離が印象的なのだけれど、ぼくは悠介さんの絵を見ていると、どうしてもこの話を思い浮かべてしまうんだ。
どんなシーンを思い浮かべちゃうんですか?
小十郎に鉄砲を突きつけられて、思わず小十郎を殺してしまった熊が「おお、小十郎、お前を殺すつもりはなかった」っていう最後のシーンがあるんだけど、そのときの熊の悲しそうな表情に見えてしまう。
まねきねこさんは、この絵の熊を悲しそうな表情だと思ったんですね。
悠介さんは、熊の毛並みを丁寧に白の色鉛筆で描いているんだけれど、その白い毛並みが目から流れ落ちている涙に見えるんだよね。
この熊って、いろんな表情にも見えますよね。目に注目すると、怒りの炎が燃えているようで怒っているのかなと思うし、周りのポップな水玉を見ていると、ウキウキしているのかなとも思うし、見ようによって全然違う。すごいなぁ。
なるほどね。ぼくは、最初の印象が強すぎて、他の側面から語れない(笑)
この熊、色合いもいいですよね。どの色もどこかひねりがあって、おしゃれというか。
悠介さんは決して器用じゃなくて、色を塗るにしてもゆっくりゆっくり丁寧過ぎるほどなんだよね。丁寧と言っても、塗り方自体は粗いんだけど、彼流の丁寧さ、まじめさがあって手の動きを見ているとホッとするものがある。
はい。そのまじめさ、熊からにじみ出てます。きっと、たくさんの人たちから愛される熊になりますよ!
2017.08.11(fri)




よこはちは、名もない女性編集者。障がいを越えて表現を楽しむアートスペース「フェースofワンダー」の仲間たちの作品に惹かれ、主宰者のまねきねこさんに「くすくすミュージアム」で絵を紹介しないかと持ちかけました。
まねきねこさんは、「フェースofワンダー」で個性に合わせた素材、道具、画法開発を大切に考えた活動を展開するかたわら、「指導者養成講座」にも取り組んでいる人物です。 主著に『アートびっくり箱』(学研)、『続アートびっくり箱』(学研)、『ねっこのルーティ』(パロル舎)、『ねっこのルーティ(電子書籍版)』(BowBooks)など。









アクリル絵の具/色鉛筆/380×270mm




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