第348回「背中」

ちょっと天才過ぎやしませんか!

この形、色、かっこいい。これが何であろうと、文句なしにかっこいい。
大きな背中。背中全体が、人のいない港みたいで右肩の先には海が見える。ゆっくり日が暮れていく時間、じっと赤く染まっていく海を見ている。そんな詩情のようなものが伝わってくる。
私はこの人、おじいさんのように見えるんですよ。旅を続ける、大きなおじいさん。向かう先には困難が待ち受けているけれど、動じる様子なく、平静にノシノシと歩いていく。
これ、本当は書道家の井上有一の写真を見て描いたもの。作務衣姿で作品を小脇に抱え、夏の庭を歩いている後ろ姿。
お、やっぱりおじいさんはおじいさんだったんですね!
うん(笑)。でも、これ写真とは全然違うんだよ。ものの見事に簡略化されていて、モリヤマくん独自の世界になっている。背景なんて、写真だと草木が生い茂っていて、夏の庭の暴力的な生命力があふれているんだよ。
え? もしかして、それをこの右側の3本線で表しているんですかね? ちょっと、天才過ぎやしませんか! それじゃ、左側の夕焼けと太陽みたいなのは何でしょう?
これ何なんだろうねぇ。写真にはない模様なんだよね。ある意味、この絵は禅問答のようなものとつながっている気がする。
確かに。何か、深い意味が隠れていそうな……私もまねきねこさんも、悟りを開いていないからわからないんでしょうかね。
世界をここまで単純化して、浮き世を見ているってすごい。そこに躊躇はなくて、あっさりそれを描いてしまう。うらやましいなぁ。
2016.04.15(fri)




よこはちは、名もない女性編集者。障がいを越えて表現を楽しむアートスペース「フェースofワンダー」の仲間たちの作品に惹かれ、主宰者のまねきねこさんに「くすくすミュージアム」で絵を紹介しないかと持ちかけました。
まねきねこさんは、「フェースofワンダー」で個性に合わせた素材、道具、画法開発を大切に考えた活動を展開するかたわら、「指導者養成講座」にも取り組んでいる人物です。 主著に『アートびっくり箱』(学研)、『続アートびっくり箱』(学研)、『ねっこのルーティ』(パロル舎)、『ねっこのルーティ(電子書籍版)』(BowBooks)など。









アクリル絵の具/365×265mm




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