第288回「習近平」
一分くらいで終わっちゃった(笑)
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謙さんは、月一回、お母さんと一緒にフェースに描きに来る。描くテーマは、その日の体調によって変わる。調子が悪いとぐるぐる線で花のような模様を描く。この日は来る早々、笑顔で「シュウキンペイ描く」って言うんだよ。 |
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ぼくも何を言っているのかわからず、聞き直したよ。「え? しゅうきん…?」すると彼は『この人、シュウキンペイも知らないの?』って顔をして、ちょっと強い調子で「シュウキンペイ!」。じっとぼくの顔を見つめている。 |
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彼の強い視線を見て、とにかくその日は「シュウキンペイを描く」って、強く思ってフェースに来たんだってことは伝わった。ぼくはそのとき、シュウキンペイって金平糖のようなお菓子か珍しい果物かだろうと思っていたよ(笑) |
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スケッチブックを開いて、色鉛筆でぐるぐる回っているような目と口、あぐらをかいたような鼻を一気に描くと、しばらく紙を見つめ「終わりました」って言う。「え?」って感じだよ。一分くらいで終わっちゃった(笑) |
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で、「絵の具で塗ってあげたらどうだろう?」っていうと「はい」と答えて、今度は顔のまわりを赤や緑でグリグリ力強く塗った。その頃、ぼくも『もしかして中国の習近平かな?』って思い始めた。 |
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彼に「これは中国の習近平?」って聞くと「はい」「好きなの?」「はい」。謙さんは、やっとわかってくれたかと嬉しそうにニコニコしてくれた。題材として、習近平! 面白いよねぇ。 |
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どうしてそんな人を描くのかは、全くわからない。普段政治に興味があるのかというと、そんなことはないもの。お母さんに聞いても「来る前に突然、習近平を描くって言い出したんですよ」って言うだけ。 |
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家でも習近平は話題に上がっていなかったらしい(笑)でもぼくは、いつも静かな謙さんが『今日はフェースで習近平を描くぞ』っと、強く思って来てくれたことが嬉しかった。 |

よこはちは、名もない女性編集者。障がいを越えて表現を楽しむアートスペース「フェースofワンダー」の仲間たちの作品に惹かれ、主宰者のまねきねこさんに「くすくすミュージアム」で絵を紹介しないかと持ちかけました。
まねきねこさんは、「フェースofワンダー」で個性に合わせた素材、道具、画法開発を大切に考えた活動を展開するかたわら、「指導者養成講座」にも取り組んでいる人物です。
主著に『アートびっくり箱』(学研)、『続アートびっくり箱』(学研)、『ねっこのルーティ』(パロル舎)、『ねっこのルーティ(電子書籍版)』(BowBooks)など。

