第205回「思い出」

「口は?」って言うと、小さな丸。

やわらかくて、まるでフェルトみたい。心が疲れているときに、ひろゆきさんのやわらかな絵を見ると、癒されますね。
こんな描き方をしているのは、描くのが楽しい状態のときだね。調子が悪くなると、一ヶ所に色を何度も重ねていく。それでどんどん色調も暗くなっていくんだけれど、これは透明感と動きがある。
ふふふ。顔もね、なんだか優しそうですもんね。消え入りそうな、遠慮がちな顔。でも、笑っているみたいにも見える。いい顔。
こんな風な顔を描きはじめたのは、出会ってから二年経った頃。「顔を描いてみてよ」って言ったら、黒の短い線を何度も重ねて二つの目を描いた。「鼻は?」って聞くと、丸を描いて縦線一本。「口は?」って言うと、小さな丸。
顔が現れ始めたのって、つい最近だったんですね〜。
彼と出会ったときは高校一年生で、ただなぐり描きのように線を描いていた。右腕の動きをそのまま紙に記録するような弧の線。それが何本も重なりながら紙面を覆っていく。ぼくはそれに感激して、いろいろな画材で描いてもらった。
私が彼の線を初めてみたときは、横に並べた色鉛筆の色が、紙の上にきれいに並んだように見えました。
鉛筆や絵の具やマジック、色鉛筆、クレパス……その中で水性の色鉛筆が一番、線の重なりが美しくなるような気がした。で、それでいつも線を描くようにした。次第に色を選んで描くようになり、塗り重ねることにも興味を持ち始めた。
まねきねこさんとひろゆきさんとの間には、そんな時間があったんですね。
今は体調を崩し、顔も描けなくて、また線に戻り始めているから、ことさら描きはじめた頃のことを思い出すんだろうね。
なんか今回はしんみりしちゃいましたね。ひろゆきさん、まねきねこさんがさみしそうですよ〜。
2014.07.22(tue)




よこはちは、名もない女性編集者。障がいを越えて表現を楽しむアートスペース「フェースofワンダー」の仲間たちの作品に惹かれ、主宰者のまねきねこさんに「くすくすミュージアム」で絵を紹介しないかと持ちかけました。
まねきねこさんは、「フェースofワンダー」で個性に合わせた素材、道具、画法開発を大切に考えた活動を展開するかたわら、「指導者養成講座」にも取り組んでいる人物です。 主著に『アートびっくり箱』(学研)、『続アートびっくり箱』(学研)、『ねっこのルーティ』(パロル舎)、『ねっこのルーティ(電子書籍版)』(BowBooks)など。




水性色鉛筆/360×250mm




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