第11回 「7年目の目覚め」
7年目に、
はじめて自分から描き始めた。
げんさんは、作業所でレザークラフト製品に色をつける仕事をしていて、「ここには、この色を塗ってください」って、塗っていい色が決まっていた。そのせいか、「これを描いてください」「この色を塗ってください」って言われるまで自分から描き始めることはなかったんだよ。 |
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けれど7年目に、はじめて自分から魚類図鑑を見てこの絵を描き始めた。だからこれは、げんさんの記念碑的作品なんだ。 |
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何を描いてもいいんだって、確信を持てるのに時間がかかったんだね。人が解放されるために必要な時間って、一人ひとり違う。でもだからこそ、すごく美しい絵だと思う。ほーんとにきれいな形だし、目のやわらかさというか、あどけなさなんてすごい。
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彼は、描いているときはすごく楽しそうなんだけど、帰るときはすごくさびしそうな表情になるんだよ。
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