第11回 「7年目の目覚め」

7年目に、
はじめて自分から描き始めた。

げんさんは、作業所でレザークラフト製品に色をつける仕事をしていて、「ここには、この色を塗ってください」って、塗っていい色が決まっていた。そのせいか、「これを描いてください」「この色を塗ってください」って言われるまで自分から描き始めることはなかったんだよ。
人に言われてやるのが、当たり前だったんですね。
けれど7年目に、はじめて自分から魚類図鑑を見てこの絵を描き始めた。だからこれは、げんさんの記念碑的作品なんだ。
えっ、7年!! しかも初めて自分から描いた作品が、こんなにきれいだなんて!
何を描いてもいいんだって、確信を持てるのに時間がかかったんだね。人が解放されるために必要な時間って、一人ひとり違う。でもだからこそ、すごく美しい絵だと思う。ほーんとにきれいな形だし、目のやわらかさというか、あどけなさなんてすごい。
本当に……優しい目ですね。
彼は、描いているときはすごく楽しそうなんだけど、帰るときはすごくさびしそうな表情になるんだよ。
何だかげんさんの話って、胸がキュンとしますね。
2012.8.14(tue)









ボールペン/カラーサインペン/370×280mm